第3章 お兄さんこういうの苦手なんだよ ( 二階堂 大和 )
『二階堂さん、ちょっといいですか?』
いつものように寮のリビングで缶ビールを楽しんでいると、少し遠慮がちに愛聖がやって来た。
「どうした?そんな畏まって」
『別に畏まってはないです。明日の撮影、入りの時間があまり変わらないので万理が一緒に行きましょうって』
あぁ、ドラマのね。
しかも遂にあのシーンの部分に入るっていう。
「どうせ同じ現場に行くんだし、いいんじゃない?」
『なら、よかったです』
多分、小鳥遊プロダクションは人手不足で愛聖には正規のマネージャーがいないし、オレらのマネージャーはMEZZO"に着いてくから、それもあるんだろ。
って言っても?
愛聖自体はオレらよりずっとキャリアがあるからマネージャーなんていなくても大概の仕事は一人でこなしてるけどな。
どうしてもって時だけ、万理さんがマネージャー代理として同行してるけど···明日がそのどうしてもって日なのか?
それに愛聖と万理さん、仲良過ぎて怪しいよなぁ。
万理さんは元から愛聖って呼び捨てだし。
愛聖こそ、万理さんを堂々と呼び捨てだし。
万理さんはそれを当たり前のように返事をする。
なんせ社長に言われて愛聖がこの寮に来るまでは、万理さんの家に一緒に住んでたって話を聞いたし。
もしかして···社長公認でデキてんのか?
そんな相手と、いくら仕事とは言え明日の撮影はその、なぁ、まぁ、アレだぞ?
千の役の男に復習する為に、恋人役の愛聖を騙して無理やり···っていう、大人ギリギリの内容だ。
キスシーン含め、ベッドシーン直後までだぞ?!
マネージャーは何かあった時の為に、撮影してる場所の端に待機してることが多い。
ってことは、明日は撮影の一部始終を万理さんは見てるって事だろ?!
緊張するとかいうレベルじゃないぞ!!
そこんとこ、愛聖は平気なのか?
彼氏が見てる前で、他の男とラブシーンだぞ?!
しかも、同じ事務所で毎日の様に顔を合わせるタレントだぞ?!
···あ、いや、彼氏かどうかは分かんないけどな?
『···で···の、···なんで···ですか?』
万理さんは真面目だから、所属するタレントにお手付きってのはないか?
『二階堂さん、私の話聞いてますか?』