第2章 私を乱さないで下さい··· ( 和泉 一織 )
柔らかな感触を思い出し、何気なく自分の唇に手を当ててみる。
ウソじゃ、なかった。
大「イチ···お前ジックリ思い出してるとか
や~らしぃ~」
見てたんですか?!
「違いまふっ!ぁ···」
噛んだ···
『一織さん?』
「···降りてください」
まだ体を離していない状況で、覗くように顔を近付ける佐伯さんをそっと押しやって立ち上がり、誰とも顔を合わせないように歩き出す。
三「あ、おい?どこ行くんだ一織?」
「部屋で着替えて来るだけです。この後レッスンがありますから」
大「着替えて来ますって···イチ、お前の部屋はコッチだろ?そっちは逆方向だっつーの」
···。
「う、うるさい人達ですね。ほっといて下さい!」
クルリと進む方向を変え、早足でその場を立ち去る。
背後から二階堂さんの笑い声が聞こえて来るのを無視して、そのまま部屋へと滑り込んだ。
「はぁ···」
閉めたドアに背中を預け、大げさなくらいに息を吐く。
今まで感じた事のないくらい、胸が早鐘を打っている。
違う。
これは違う!
これはさっきの事故的キスでドキドキしてるんじゃない。
そう、思い込んでまた息を吐く。
自分がこんなにもドキドキしてしまった事は、誰にも知られたくない。
いえ、知られてはいけない。
なぜなら···
きっとなにかの度に、二階堂さんに弄られるから。
平常心···
平常心···
何度も呪文のように口に出し、その度に大きく深呼吸する。
思えば思うほど、さっきの出来事が頭を過ぎる。
パーフェクト高校生と呼ばれる私が、あの程度のことで狼狽えてしまったことは···
誰にも悟られないようにしなければ。
~ END ~