第1章 秘密のキスはアナタと ( 大神万理 ・2018生誕 )
『万理···聞いて欲しい事があるの』
いつになく真剣な顔をした愛聖が、給湯室の隅っこで俺の顔を見上げる。
「俺に?なんだろ?」
朝からパソコンと睨めっこを続けていた俺は、ひと息つこうとコーヒーを入れながら愛聖の話に耳を傾けていた。
こんなに真剣な顔して俺に聞いて欲しい事とか、もしかして大きな役を貰ったとか、映画の主演が決まったとか?
結構いろいろなオーディション受けてたからなぁ。
「それで、どんな話?」
『うん···それなんだけど···』
「なに?」
『私···出来ちゃったみたい···』
えっと···?
出来ちゃった···って···?
「なにが···かな?」
『ここに···』
言いながら愛聖が自分のお腹にそっと手を当てる。
『赤ちゃんが···』
「そっか、赤ちゃんか···って、赤ちゃん?!だ、誰の?!アチッ!!うわっ!」
驚きのあまり入れたばかりのコーヒーを零し、慌てた勢いでカップを落とす。
『だから、この子は···の····だよ···』
ピピピピピピピピピッ···
けたたましくなり続けるアラームにハッとして目が覚める。
いつもと同じ天井。
いつもと変わらない俺のベッド。
今の···夢、か?
いや、目が覚めた場所が自分の部屋なんだから夢だろ。
それにしても妙にリアルな夢だったな。
まさか、予知夢···とか?
いやいやいやいや、それはないだろ。
だってそんな事実はな、い···よな?
遠い記憶の引き出しをアチコチ開けても、思い当たるような事実は···
大丈夫。
恐らく、ない。
···と信じたい。
いや、信じよう。
ふるふると頭を振って、夢の断片を追い払う。
シャワー浴びてスッキリして来よう。
うん、それがいい。
今日はいろいろと忙しい日だから、スッキリしてシャキッとして出勤しよう。
朝一で社長と打ち合わせしなきゃいけない事もあるし。
さっきのは夢だ。
···忘れよう。
乱れたベッドを整えて、脇目も降らずにシャワールームへと向かった。