第3章 二口女 ≪前編まで公開≫
「薬売りの方。こんな田舎町に何があるのでしょうか」
穏やかな香りを漂わせながら、千咲と薬売りは決して早くはない足取りでとある田舎町にたどり着いた。田舎とはいえ、ここにも小さい屋敷だが貴族が住んでいるため刀を腰にさして歩いている男を何人か見た。だがそんなに多くの町人が歩いているわけでもなく、看板のある家が多いわけでもない。強いて言えば、木々が多く近くには大きな川が流れていたためか、街の外れから井戸がいくつもあった。水に困ることはない町だからか、人がそれなりに住んでいるのかもしれない。
「さて、宿でもとって、一休みしやしょう。
足が 棒になっちまう」
ようやく言葉を発したかと思えば、相変わらず千咲の質問には答えない。千咲は未だに薬売りのそういった会話が続かない・成立がしないことに慣れていない。
「そう。わたくしはもう少し近くを散歩します。木が多くあるところなので、新しい香木が手に入りそうなので」
「俺の頼みを 一つ ばかり聞いてはくれないか」
何だ、と千咲は薬売りの顔をまじまじと見ると、彼はある家を見ていた。ぼろぼろとした家の群れの中にある一つだけ古さを感じさせない家だった。艶のある木の板が目立っている。
「あの家の 薬師が、ここらで採れる 珍しい 薬草を 持ってる とか」
「お使いということね。
わたくしの目当てのものもありそうですし、承りましたわ」
「話が早くて助かる」