第2章 香り娘と宿屋
「千咲さんが 期待するなら、俺は それに 答えるが」
「もういいですっ」
部屋に通された時にはすでに用意されていた薄っぺらな布団に頭から隠れるように潜り込んだ。明日も明後日もこの男と共に私は歩むのか。信じられぬ。モノノ怪を切る力は、一度見たことがあるだけ。でもそのチカラはとてもすごきもの。その一点のために私はこんな思いをしながら旅をするのか。
布団から顔を出した時には、男はすでに眠りについていた。彼も疲労が溜まっていたのかもしれない。火事は怖いので香を片付け、男の顔を見た。
女の私から見ても、綺麗に整った思わず頰を染めてしまいそうな顔。見ているうちにだんだんと、先の事はどうでもよく感じてしまった。
まさか、この男は私に恋心を持っているのだろうか、一目惚れ、なんて。私は何度か思いを寄せられた事はあったが、どの方も素敵ではあったが、弱かった。この方ならと、目の前で眠っている男に再び意識を向ければ、座っていた。
「お、起きていたのですかっ」
「私としたことが まさか 今晩 から 抱いてほしいなんて、千咲さんは 積極的 なんですね」
「なにを言うのですかっ」
真っ赤なタコが墨を吐くように、ぱくぱくと口を動かしても何も出ない。側からみれば私が、この男の寝込みをこれから襲いますよ、といっているような場面だ。
「わたくしは眠ります!どうぞ、貴方もお休みください」
「これは 残念」
次に布団へ飛び込んだ時は、すぐに眠りへと落ちていった。