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香り娘と薬売り

第2章 香り娘と宿屋



なぜ、こうなったのか。思わず了解してしまったが、誰かと共に旅をするとは考えてもいなかった。そもそも妖を退治することは目的だが、ほぼ行き当たりばったりの旅。昨日までは赤の他人。名も知らぬいい年の男と2人っきりの旅。

「では、ここらで 宿を とりましょうか」
「えっ、えぇ、そうですね」

烏が集団で山の方へと飛んでいく。もうこんな時間なのか。薬売りに言われるまま、あまり高価な宿ではないところに泊まることになった。古さは感じないが、小さな宿だ。

「なんで、貴方と!同じ部屋なのでしょうか!!」

「おや、なにか 手違いが あったのかもしれないな」

「わたくしは、自分で宿屋をとりますので、明日の朝にこちらに参ります!」
「せっかくだ、何か 焚いては くれないか。
すこし 疲れてしまってね」
「人の話聞いてますか!?」

この男といると自分のペースが崩されてしまう。こちらもヤケになり、すっと気が晴れ疲労回復効果もある香木を焚いてやることにした。私自身も一日中歩き続けたので疲れている。早く休みたい気持ちが強い。

ことこと作業を進めると、じぃっと男はこちらを見ていた。見るな!と一度睨んでみたが効果はなく、目を細められただけだった。

「これは これは、いい香り じゃないか。
こいつは 沈香 かい」

「薬売りの方、本当にお詳しいのですね。その通りです。これは、わたくしが一人の時でもよく焚くものです」

「毎晩 これからは この匂いにつつまれ

あんなことや こんなことを しましょうかね」

ニタリ、まさにこの効果音が聞こえてくるような笑いを浮かべる薬売り。窓から見えていた夕焼けはすでに沈み、りんりんと夜の虫の音が聞こえてくる。

「あ、貴方は何をおっしゃってるのですか!
わ、わたくしは、そのような、は、破廉恥な」
「おや 俺は 別に そのようなことは言ってない はずだが」

「はめましたね!卑怯者の一言でございます!!」

私が一人で空回りしているだけなのか、顔に熱がこもるのを感じ、男を見るのをやめ顔を隠した。勝手に卑猥なことを考え、なんて女なのでしょうか、私は。

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