第1章 香り娘と出会い
「そうですね。
俺は こんな娘が 一人で 香木を売っているとは」
「あぁ、そういう。
わたくしはこう見えて、立派な女でございます」
「へえ」
へえ???この男は失礼の塊なのだろうか。
むっとなり、薬箱の引き出しを次々と見てみた。やはり、薬売りが持っているにしては不思議なものがズラリとある。天秤とか、こんなにも沢山と。
かちゃり、と紅い短刀もあった。
「薬売りとは、こんな物騒なものまでお持ちなのですね。
こやつが先程の妖を退治した刀なのでしょうか」
「いえ、違いますねぇ」
「先程切っていたでしょう」
「モノノ怪をね」
モノノ怪、あの妖よりも奇怪なものたちか。
「貴方はモノノ怪を切れるのですか」
「形・真・理 この三つが 揃えれば ですがね」
この不思議な薬売りの方は、あんなにも不気味で物騒なモノノ怪を退治して回っているのか。
「しかし 貴女は 不思議な 力をお持ちではないか。
この香りの 伽羅 先程も焚いていた時 なんて
奴は 微睡んでいた」
先程退治したモノノ怪のことであろう。
「ええ、わたくしは香木を使い、人々を一時の間ですが、妖から守りの呪いを作っております。
切る、なんてことはできませんが、聴く、ことなら」
なんでもないただの木のかけら。香木を焚くように、一手間加えて呪いをすると、妖を聴くことができる。
「聴いたところで、そうそう物分かりのいい妖は、中々おりませんがね。モノノ怪なんてなおさらでしょう」
「ほほう ようやく 納得 しました」
「貴方はもう少しばかりか、聞きたいことはすぐ聞くべきなのでは。そうならそうと、わたくしも答えます。特別隠しているわけではありません」
「いやいや こんな小娘が そんな呪いを使えるなんて
俺の考えが 信用ならんくてねぇ」
「こ、こむすめ、ですか」
「おやおや、これは失敬」
なぜこんな出会ったばかりの男にからかわれているのか。失礼にもほどがあるのではないか。
「 千咲さん 共に モノノ怪を 退治はしてくれないか」
くるくると手のひらで回していた天秤が、からんと音をたてて薬箱に落ちた。
終