第1章 香り娘と出会い
「お陰で たすかりましたよ」
まさかお礼なんて言われるとはおもわず、返事するタイミングを失ってしまった。この女物の着物の中でも派手なものを纏っている男。
「よければ 貴女の 名前を お聞かせ頂きたい」
独特の間で話す男。
「わたくしは、 千咲と申します。
貴方のお名前は?」
「 千咲さん か。
私は 薬売りとでも 呼んでください」
人に名を聞いておきながら。深く追求する気にもならない。
「貴女の その香木 ちいと 見せてはいただけないか」
私が彼方此方とあてもなく旅をして集めた香木たち。とても思入れのある大切なもの。恐らくこの薬売りという男は乱雑に扱いはしないだろうが、どうも信用に欠ける。
「では、貴方の立派な薬箱を
わたくしに見せてはいただけませんか」
「おや、これに 興味がありますか
どうぞ どうぞ」
ずいと私の目の前に置かれた大きな薬箱。この男はこんな大きなものを背負い歩いているのか。薬売りの仕事もなかなか大変なのであろう。
だが、自分の香木をしまう箱も大きさは負けてしまうが、種類は負けないであろう。甘く微睡んでしまうような箱を薬売りに差し出すと、彼は包み込むように受け取ってくれた。
「よく こんなにも 沢山の香りをお持ちで」
この男は香木についてもだいぶ知識があるように感じる。貴族とも繋がりがあるのだろうか。しかし、先程は金も持っていないような平民を乗っ取る妖を見事に対峙した。
わからない男だ。
「薬売りの貴方も、品揃えが選り取り見取り。呪いもやっているのでしょうか」
「それは どうだろうか」
クスリと微笑んだかのように感じたが、笑っているようには思えぬ表情。またはぐらかされたのか。
しかし、なぜ私のような香りを商売とする小娘に興味を持ったのか。
「なぜ、貴方のようなお方か、わたくしに興味を。
恐らく、貴方は他人と関わりたがらない人だとわたくしは思います」