第6章 噂の少女
「あーっ!」
流衣が教室に入ると、そんな声が彼女を出迎えた。
「うるさ…」
背は低いくせに、こういう時に声だけがでかい奴は嫌い、と内心愚痴る流衣。
とんだ理不尽だが、本人はそう思われていることを知らない。
無知は幸せである。
「主役が来たーッッッ!!!!!」
「は?」
冷たい視線を向けつつも席に座ると、緑谷が顔を赤くしていた。
──…?
よく見ると、クラスメイトほぼ全員の視線がこちらを向いている。
その目に浮かぶのは、好奇の色。
「事情が読めないんだけど」
視線を集めるのは、あまり好きじゃない。
それが「好意」でなく「好奇」なら尚更だ。
このような視線には嫌な思い出しかないし、自分だけが事情を知らないのも気に食わない。
苛立ちを隠さずに言うと、上鳴がまぁまぁ、と宥めるようにして言った。
「緑谷と付き合ってんじゃねーかって話になっててさ。実際、どうなん?付き合ってないなら、俺と今度メシでも行かね?」