第4章 ヒーロー基礎学
「お前、本当に無個性なのか?」
ボール投げで、爆豪が膝をついた時。
あれは明らかにおかしかった。
止めようとはしなかったものの、自分は2人の動向をしっかりと見ていた。
しかし、流衣が動く瞬間は全く分からなかった。
何もしていないのに爆豪が倒れた、とは考え辛い。後に、流衣は「何をされたのか分からないなら、私の相手にはならない」と言っていたから、尚更である。
それはつまり、流衣が何か仕掛けたということに他ならないが、しかしモーションさえ見れなかったとはどういう事か。
それほどに速い動きであったのなら、後から風やら何やらで動いた事がこちらに伝わるはず。
更に奇妙な点を挙げるのならば、爆豪が倒された(と、思われる)ときに彼にかかった力が、最小に抑えられていたということ。
目にも止まらぬ速さで、しかし爆風は起こさず、それでいて相手への身体的ダメージは殆ど感じられなかった。
一般人がなせる業ではないだろう──それが、個性でない限りは。
しかし、流衣はにこりと笑った。
「やだな轟。無個性だって、言ってるじゃない。…じゃ、私、これから用事あるの。また明日ね」
軽そうな鞄を手に持って、流衣は足軽に教室を飛び出した。
本当にこのあと用事があったのか、それとも自分との会話から逃げ出すための方便だったのかは分からない。
しかし──
「お前は…なんで雄英に来たんだ?」
今日も、最後列にいて、流衣は真面目に授業を受けていなかった事を轟は知っていた。
だからこそ、思うのだ。
なぜ彼女は雄英(ここ)に来たのだろう、と。