第2章 少女の名は
彼女が投球する直前、何か話しているように見えたから、指示したのかもしれない。
手を抜くように、と。
「…時暮なら、俺にとってじゃなくても特別でしょう」
静かな相澤の言葉。
言い返されてしまい、オールマイトは押し黙った。
何も言い返そうとしないオールマイトを見て、相澤はそのまま去っていった。
端末を立ち上げ、相澤は小さく笑みを漏らす。
──でもねオールマイトさん…流衣はあいつなりに頑張ったんですよ…「頑張って、手を抜いた」んですから。
時暮流衣の成績…21人中、11位。
ほぼ真ん中の成績。
そして、相澤はその端末から過去のデータを呼び出した。
『時暮流衣(10)…記録』
先程行った、各種目の記録。
しかし、先刻と違っていたのは表示された記録の方であり──…流衣が出した記録よりも、大幅に良いものが出ている、という事だった。