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御伽アンダンテ【HQ】【裏】

第14章 刻


「牛島くん……」
見舞いに部屋を訪問すると、ぴりっとした空気だった。
「なんだ?」
「……黙ってた、でしょ…」
なんのことか一瞬わからずに首を傾げる。
「私、もう……、それ、黙ってた……」
「…!」
余命のことかと、声が出そうになった。
なんでわかったのか、とひやりと嫌な汗が流れた。
「私…、もう、何も食べれないから……」
に、と買ってきた菓子を床に落とす。

前にどこかで聞いたことがあった。
延命治療の一環としてある、食事が点滴やカテーテルになるというもの。
彼女は、それを知っていた。
知らないというのも、無理な話だろう。
人生で大半は入院生活だったのだから。
周りの人や看護士たちの会話や雰囲気で、なんとなくわかるのだろう。

とうとうここまできたか、というのが最初に出た感想だった。
悲しみなんていうものは、初日で消え失せた。
今はすごく、冷静だ。
「…」
「話し掛けないでよ…」
冷たい、人を信用していない声だ。
「牛島くんなら…、教えてくれるって……思ってたのに……」
それはあまりに酷だ。
知ったときは動揺で死にかけたというのに。
それを彼女に直接伝えるなんて、無理だ。
「なんとなく、わかって、いたの……。
でも、牛島くんが、いつも大丈夫って……」
「悪かった……」
「謝らないで……。
でも、もう、来なくていいから」
彼女らしくない、本当に冷えきった声だった。
「なんか、買ってきてくれたんだ…。
ごめんね、無駄遣い、させちゃったね……」
「…、これは……」
なんの言い訳もないのに、口を開いてしまい、後悔する。
「帰ってよ……もう、いい」
「……」
何も言えない。
相当怒らせてしまった。
帰ってからゆっくり、明日なんて言おうか悩もう。

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