第9章 白露に吹きし風
「…凄く、凄く、綺麗だね…」
「また来年も見よう、ここで」
「…………」
「音がうるさくて、お前の声なんてすぐ消えるな」
「…牛島くん……」
「来年も、見よう。ここで。」
口調を強く、声も大きく言う。
「……牛島くん…」
「約束だからな」
色んな光に照らされるの表情が歪む。
俺はそれを、絶対に見ないふりをする。
「来年は、もっと近くで見てもいい。
川沿いだ。火薬のにおいがする。
大きくて、迫力がある」
「……っ」
「それも、また、良い」
声が震えそうになるのを堪えた。
それでも、肯定の返事をしてこない彼女を待つ。
佳境に入り、一気に空に花が咲く。
それでも彼女は、返事をしてこない。
繋いだ手をよりいっそう強く握る。
「……」
「ほら、聞こえないぞ」
「牛島くん……」
「名前で呼べ」
「わ、若利く、……ん」
いつまでも返事がない口に噛み付く。
こういう、深いキスはいつぶりだろうか。