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御伽アンダンテ【HQ】【裏】

第9章 白露に吹きし風


馴染みの商店街が近付く。
こういう出店の出る祭りも昨今は減ってきてしまった。
収益に繋がりにくく、上がってきた土地代や、近隣の抗議など、理由は様々だろう。
今日の祭りも、何ヵ所か空きがあるのが少し気になった。
「食べたいものあったら言え」
「…う、うん」
物珍しいのか一軒一軒を真剣に見て何にするか悩んでいた。
こちらは昼以来何も食べていなかった上に、ロードワークに出てしまった為、片っ端から食べ物を買う。
道端の席がまだ空いていたので一緒に腰を掛けた。
「牛島くん、それはなに?」
「…お好み焼き」
「そっちは…?」
「たこ焼き」
「これが…?」
「焼きそば」
「……どう違うの?」
「……味付けは同じだ」
は不思議そうにそれらを見て、なるほどと感心をする。
「食べるか?」
「じゃあ…一口だけ…」
ありがとう、と言うとたこ焼きを一つ丁寧に割って食べる。
「あ…!なんか、懐かしい……」
「そうだな」
嬉しそうに1つを食べ終わる頃、自分も買った物をおさめきった。
「そろそろ始まる、行くぞ」
「…う、うん」
商店街を裏口に抜け、路地裏をしばらく行くと、小高い丘に小さな待合室がある。
昔はここに店でもあったのだろうが、現在は無人で、忘れ去られていた。
毎年ここで、夏の終わりを感じるのが、俺なりの習わしだった。
「座ってても見える」
立たせておくのが不安で、座るように促すと、小さな声で、ありがと、と聞こえた。
「咳は治ってよかったな」
「そうだね……」
は切なそうに俺の顔を見上げる。
座ってても埋まらない身長差。
こんなに小さくてよく生きてきたと思う。
「この前…先生に怒られた、よね?」
「ああ」
「ごめんね…?」
「俺が勝手にやった」
「そうだけど、私のせいでもあるから……」
倍近くはある俺の手をそっと握る。
白い肌が、夜のせいで青白く見える。
「……ありがとう、嬉しかったよ…」
「俺の為にやった」
とは言ったものの、感謝されるとは思わなかった。
幸福感に満たされ、自然と口角が上がる。
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