第9章 白露に吹きし風
夏休みの後半、やっとは退院出来た。
浅葱色の古典柄浴衣がよく似合う。
「変…?」
「いや、見惚れていた」
「……っ」
約束の花火大会だった。
さすが名家の娘(なのか?)なだけあり、着付けは一人で出来たらしい。
「牛島くんも、上手だね…」
「そうか」
こちらは着なれない浴衣だったが、どうやら大丈夫らしい。
ズレないようにだけ、少し直してもらい、そのままカラカラと下駄を鳴らして二人で歩いた。
夏の風はすっかり熱帯のそれで、埃と緑の入り交じったにおいがした。
「屋台が並ぶんだが、平気か?」
それはこの前の体調のこともあったが、パニック障害の方も気になる。
「…うん、牛島くんとなら、平気…」
「…ああ」
顔に血液が集まると、熱くなった。
腹の底がむずむずする。
小さな手を握ると、小さな力が握り返してくる。