第8章 現実逃避行
坂を登っては下り、道路に車すら見えなくなる。
制服ではなく、ジャージにしておけばよかった。
湿ったコンクリートから伝わる熱が鬱陶しい。
は楽しそうに笑ったり、初めて見る場所の景色を色々指差しては質問してきた。
他愛もない話や、昔話をしながら、目的もなく走った。
たまに回される腕に力が込められ、寄せられた顔からじわりと濡れているのに気が付く。
「…っ」
信じて、その身体を寄せて欲しい。
最後の最後まで、信頼していて欲しい。
もう二度と、悲しい涙は流さないよう、もっと近くで守りたい。
お互いの関係の未来のように、明かり一つない道を、ただ、その軽すぎる体温を背負って、俺は走り続けた。
やがて、拓けた草原に出た。
「わぁ……この町、こんなとこあったんだ……」
「そうだな、俺も知らなかった」
「……帰れるかな?」
「帰りたくもない」
はゆっくり芝生に座り、辺りを見渡した。
さすがに走り疲れた俺は横になった。
何気に持ってきた鞄は、水分を入れている方でよかった。
「もしかして、先生に…聞いちゃった……?」
「ああ」
「……っ、牛島くんは、優しすぎるね…?」
「にだけだ」
だって、守れなかったから。
見上げれば。
満天の星空。
その上流星群が見られた。
「すごい……きれい……」
夜風が少し冷たく、その身体が冷えないよう腕を引いて、胸元に抱き寄せる。
静かな体温が優しく心地良い。
草木が揺れ、寂しさを紛らわせてくれそうなほど騒がしい。
二人しかいないこの空間が嘘のようだ。
「普段は、こんなことなんかしないんだが」
小柄な彼女の髪が風に揺れる。
どこかくすぐったく、それが身体に触れる。
「1日でも長く、と歩みたい」
流れ星に向かって手を合わせて願った。
「……そうだね…」
凭れてくる消えそうな灯火が、いつまで輝くのか誰もわからない。
それでも、そう願わずにはいられない。
それは当てもない実証も出来ない、ただの流れ星伝説であったとしても。
現実主義である自分ですら、そう思わせる、不思議な力を説明することもできず、流れては消えていく過去に流れた星達を眺めて思った。