• テキストサイズ

御伽アンダンテ【HQ】【裏】

第1章 春のひだまり


「大丈夫かと聞いている」
「…はっ」
きめ細かい肌がいつもより更に白い。
さすがにおかしいと思い、犬猫を抱くように、下半身と上半身それぞれに腕を通して保健室へ走った。
「すみません、様子がおかしくて」
「あらあら、大変。またその子なの?」
ここの常連だったようで、先生の対応も早かった。
「よかったわ、見つけてくれて。
パニック障害起こしているのよ」
「はあ」
「人混みとか、狭い空間とか、暗いところとかでも起こる人がいるわね。
苦手な環境になると、精神的苦痛によって、吐き気とか過呼吸とか起こしたりするの」
先生は淡々と説明すると、水を飲ませて落ち着かせた。
「…はぁ……ごめんなさい…」
「そのうち治るわよ」
「は、いつからそれを?」
「…っ!」
「言いたくないのか?」
目が見開かれて驚いたようにこちらを見る。
「牛島くん、女の子を下の名前で突然呼んだら驚くわよ普通」
「……と呼んでいいか?」
「そういう問題じゃなくて」
「う、うん…」
「そうか」
「…好きになさい」
保健医に何を呆れられたのかよくわからない。
が、小さな口から小さな声で、質問に少しずつ答えてくれた。
「わ、私…人前が苦手で…音楽の授業とか、体育とか…だ、ダメで…」
「そうか」
「こんな年に…なっても、怖くて…ダメ、だよね…」
はぽろぽろと大粒の涙をこぼしながら話してくれた。
俺は、何故かそれが、とても美しく思えた。
どう表現したらいいかわからない。
目元が赤くなり、潤んだ瞳が流す涙、それにとても夢中になる。
「この子の場合、過去のトラウマに要因があると思うのよね」
「トラウマ…」
「無理して治そうとしても、悪化するだけなのよ。
少しずつ克服するしかないのよ」
「わかった、協力する」
「は?」
「…!?」
自然と出た言葉だった。
「俺が、少しずつお前を強くする」
「牛島くん、あのね、こればっかりは専門医とかカウンセリング…」
「ほんと…?私…強くなれる…?」
はあ、とため息が聞こえる。
は俺の顔を少しだけ見て、恥ずかしそうに反らした。
「約束する」
これが、俺達の最初にした約束だった。

/ 85ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp