• テキストサイズ

御伽アンダンテ【HQ】【裏】

第1章 春のひだまり


その少女は、あまりに脆く、あまりに儚い存在だった。
その少女に出会ったのは、ある晴れた春の日。
日だまりで、まるで、金粉をまぶしたように輝いていて、目を奪われたのを覚えている。
「3年からこの組に転入することになった…」
珍しいとは思った。
担任の説明の最初しか聞くことが出来ないほど、俺はその少女に釘付けだった。
「はじめまして」
小さな声で自己紹介をする。
制服が少し大きく思えるほどの身体つき。
薄い色素の肌と髪。
「ご家族の都合で急遽学校が変わることになった。
宜しくな。席は……」
残念ながら、出席番号が最後となるため、近くの席になることはなかった。
(残念?)
なんでそんなこと思ったのだろうか。
ふとした疑問が浮かんだ。
それを解決しようと、彼女を目で追い、耳を立て話す言葉を聞き、時に机に置いてある本を見る。
何も解決はしなかった。
空き時間は彼女のことを考えてしまう。
少し前まで、そんなことはなかった。
今打ち込んでいることに夢中だった。
まるで自分じゃないようでもどかしい。
毎日の成果あってか、少しだけ彼女のことがわかってきた。
名前は。
自己紹介の時ははっきり聞こえなかった。
本人によく合っている響きだと思う。
いつも読んでいる物は恋愛小説だった。
話題になったベストセラーでもあるが、俺には興味がなかった。
が、どんな内容か気になり、先程図書館で借りた。
友達はまだおらず、引っ込み思案なのが伺える。
昼は綺麗に作られた弁当を食べている。
親は料理を専門としているのだろうか。
そして、弱い。
人前に立つと声が震える。
たまに変な咳をしているのが気掛かりだ。
休むことはなかったが、早退がここ1週間で2回あった。
そして、やっと、彼女に話しかけることが出来たのは、転入してきて早2週間と3日。
音楽室への移動教室の際、座り込んでいるところを発見した5限目の始業ベルの音がした瞬間。
何故ここまでハッキリと覚えているのか。
「大丈夫か?」
「…っ!」
/ 85ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp