第3章 ガラス細工
の家は学校からそう遠くない所にあった。
ただ、もし彼女が家族と住んでいるのならば、あまりにも酷いという一言に過ぎない。
隣人に文句でも言われそうな廃棄物、 そこに佇む木造のアパート。
そこの2階だった。
鍵も掛かるか怪しいほど、ボロのドアを開けると、必要最低限の家具が揃ったがらんとした部屋。
「………、ご家族は…」
「いないの… 」
は下を向くと、何も話してくれなかった。
「送ってくれて、ありがとう……」
「……」
どんなに怖い思いをしても、相談する相手も、慰めてくれる相手も、やめろと言える勇気もなく、今まで過ごしてきたのか?
「牛島くん、……ごめんね、帰ってくれる?」
「…」
「帰って、帰ってよ…っ」
「一緒にいる」
「……っ!!」
「泣いている奴を放って帰れるほど、不出来な人間ではない」
「……っ」
はいつもの吐き気を催すと、よろよろとトイレに向かった。
先程の緊張が今来たのか、俺のせいなのか。
水を用意しといてやると、ゆっくりと飲んだ。
「牛島くん、いつ帰るの?」
「お前が落ち着くまでいてやる」
「…そんなの、一生来ないよ…」
「来る」
「だって、まだ、怖く、て…!!」
「怖くない」
冷静にたしなめると、はぐっと下唇を噛んで俺を見る。
それはやはり一瞬だった。
「もう、拒絶されるのは、怖い……。
牛島くんも、皆と同じ…、私が珍しくなくなったら、拒絶して、避けて、いなくなっちゃうんでしょ…?」
「いなくならない」
「うそ、そう言って、みんな、私を……」
彼女のトラウマは、そこにあるんだろうか。
泣きそうになるのを堪えると、また吐き気に苛まされているようだった。
「ううっ……うっ」
どうにも、抑えきれない感情が沸く。
抱き締めたくて仕方がない。
その小さな四肢をすっぽり自分の胸元に納める。