第6章 Cube
彼女は依然として眠り姫を続けていた。
ふいに部屋の扉が開き、背後から声がかけられる。
「ヴィンセント。やはり、先に見つかってしまいましたか」
「リーブ……。どうなっている」
「実は、クラウドに依頼して彼女をルーファウスの元から連れ出してもらったんです。……見ての通り植物状態と同等ですので、ルーファウスとしても彼女から何の情報も引き出せないと判断したようで、あっさりと引き渡してくれたそうです」
「植物状態……」
ヴィンセントはシャロンの手を取り、華奢な指先を軽く動かしてみる。
自分の意思でないとはいえ、触れればそれに応じて動く体は結晶体で包まれていた頃に比べれば、ずっと人らしかった。
「自発呼吸はできるのだな」
「ええ。なのでシャルアとは別の処置をしました。ポッドを使わず補助器具のみで様子を見ていこうということになったんです。こうしていると、今にも起き出しそうでしょう?」
「……ああ。今にも……」
瞼を開けそうな寝顔を見つめる。その瞳に自分が映る事を夢に見ながら。
長い睫毛に、小ぶりでふっくらとした唇。いつまでも眺めていられるほど美しい。こんな事を言えば、彼女は頬を染めて恥じらうのだろう。少しだけ口元を綻ばせていると、リーブがヴィンセントに声をかけた。
「あなたの部屋に連れて行きますか? 定期的にお邪魔して状態を見させていただくことにはなりますが」
「いや、このままでいい。それと、私の個室は不要だ。ここで過ごさせてもらう」
「わかりました。ただし部隊の帰還時などには場所を空けていただくかもしれませんのでそこはご理解ください。では、後の作戦会議で」
リーブは軽く腰を折ってから部屋を後にした。
2人だけの空間で、ヴィンセントはシャロンの手を取り頬を撫でた。
彼はいつかボーンビレッジの小屋でもこのように手を握って、眠る彼女を見つめていた事を思い出していた。あの時は、ようやく再会できて焦っていたためか、一睡も出来ず一晩中考え事をしながら彼女を見ていた。彼女は目を覚ますと慌てたように起き上がって、自分だけ休息を取ってしまったと焦っていた。
あの時のように目を覚ましてくれたらと思うが、彼女が目覚めない原因はわからないそうだ。
ヴィンセントは名残惜しそうに頬を撫で、立ち上がる。
「時間だな……行ってくる。この世界を、死なせるわけにはいなかいからな……」
