第1章 white eyes
「ここは暖かいわね」
「そうか? よくわからない感覚だな」
「何かに包まれているような、守られているような……」
「ここは星の全てが集まるからな」
セフィロスは興味がなさそうに相槌をうってシャロンに問う。
「お前の帰る場所はここではないのか」
「私の帰る場所は……愛する人の傍にあるわ」
「抽象的だな。……なぁ、昔話を聞かせてくれないか。お前の出生や、幼少期……」
シャロンは黙り込んだ。話せる記憶を持ち合わせていないからだ。
「お前の記憶はそれほどまでに不確かなのだな」
「正直言って、自分自身がよくわからなくなることも確かにあるわ。だけど、ふとした拍子にフラッシュバックするのよ」
「それは?」
「暗く深い、赤と黒」
瞳、外套、血液の赤。夜の海、スーツ、闇の黒。それらの断片的な記憶を紡いでいくと、全てがヴィンセントに繋がっていく。彼女の記憶の奥底で揺るがない彼の姿。
「シャロン……それはこんな色か?」
セフィロスの瞳が赤く染まっていく。
「……その瞳……どうして」
「さぁな。この体は曖昧なものだ。そして、お前の記憶もまた、曖昧なもの。抽象的なままで生き続けるなら、それは簡単に改竄されてしまう」
「……そんなはずない」
「では何故幾度もの実験を経ているにも関わらずヴィンセント・ヴァレンタインの記憶が消されずに残されている? 不自然だとは思わないか?」
「そんなはずない……だって、彼も覚えていてくれたもの」
しかし彼もまた実験を受けた身。シャロンが不安げな表情になり、それを見たセフィロスは喉の奥で笑い、目を閉じた。
自己嫌悪。こんな風にからかうことでしか気を引けない自分に嫌気がさしていた。
「記憶の断片……探してくるがいい。まだ、お前の記憶までは回収されていないだろうからな」
「え? もう一度言って?」
「この膨大な情報の中に、お前の記憶も散らばっているはずだ。目覚めの時まで、まだ時間がある……」
「どうやって……」
「一度はできただろう? 少年期の俺と出会った時の事を思い出したように、自ずと見えてくるさ。行ってこい、俺は逃げ出したりしない」
セフィロスは時々不思議なことを言う。シャロンはそれでも彼の言うことを素直に信じた。ただ時を過ごすだけという責任放棄にも似た行為は彼女にとって好ましくないことでもあるから。
