ここはシリーズif短編【HUNTER×HUNTER】
第8章 夜桜に出会う
風に乗ってハラリと舞う花弁を視線で追った大きな瞳
「……それより早く帰った方が良い。」
再び交わった視線は冷たいというより帰宅を促すそれだったのだが
「知ってるでしょ、最近この辺りで殺人事件が頻発してるって話」
「え、知りませんけど……そうなんですか?」
「あれ?……ああ、そっか……残虐性が高いとニュースにならない事もあるからね」
この時僅かに笑みを浮かべる唇にゾクリと鳥肌が立つのがわかった
何故そんな事を口にしながら薄い笑みを浮かべたのか明確な理由は何も無いのかもしれないが
その人の放つ雰囲気や黒い瞳が色を変える
まるで闇に溶ける様に黒く妖しい香りを漂わせ
頭の中では今以上彼に踏み込む事は危険だと警報が鳴り響いていた
素直に話を聞いて背中を向けるべきだと脳が判断しているのに気持ちはますます離れがたく
「………そっか……」
未練から漏れた無意味な呟きで僅かな時間を繋ぎ止めた
物騒な話題にも本能にも抗って帰宅を躊躇する私
そしてそんな私をじっと見ていた彼は唐突に
「参ったな……時間が無いんだけど」
慌てる素振りも見せずに間の抜けた声を漏らした
全くそうは見えないが長い前髪をかき上げながら腕時計に視線を落とす仕草から私が彼を困らせているのだと意識すれば立ち去る他無いのだが
「どうしたら帰ってくれる?金にならない事はやりたくないんだよね」
単調に続いた台詞に何を考えるよりも早く唇が動いていた
「お名前は!」
思わず漏れた声は静寂を破る大声で
少し面食らった様に瞳を見開いた彼は
「……イルミ=ゾルディック」
ポツリと横文字を口にした
おわり