第1章 *一ノ章*
淡い桜が舞う中、私は君を見つけた。
君はあの時と何も変わらない、屈託のない笑顔を浮かべていた。
「一十木音也君?」
声を掛けるとびくりと肩を震わせ、君は振り向いた。
その顔は、ちょっぴり警戒しているようにも見えたけど懐かしい顔だった。
「えっと、ごめん。君は?」
「覚えてないかな?虹村夏海。同じ孤児院だったんだけど」
「……もしかして、なぁちゃん!?」
『なぁちゃん』というのは私、虹村夏海のニックネームだ。
その呼び方が懐かしくて、ちょっとくすぐったくて嬉しかった。
自然と頬が緩み、声が弾んだ。
「久しぶりだね!おと君」
そう声を掛けるとおと君こと、音也は嬉しそうに目を細めた。
パァァと効果音がつきそうなほどの笑顔。
その笑顔が私は何より好きだった。
「久しぶりなんてもんじゃないよ!どうしたの?こんなところで!」
「お仕事!そうしたらおと君の姿が見えたから」
「よく俺だって分かったね!」
分からないはずがなかった。
私がずっと追いかけてきた背中だから、気付かないわけがない。
「まさか、おと君がアイドルになるなんてね。びっくりしたよ」
「えー?そんなに意外かなぁ?」
「そうじゃなくて、驚いただけだよ」
たったこれだけの事が全ての始まりだった。