• テキストサイズ

【短編集】My Favorite【R18】

第2章 生贄の乙女#


彼女の村には、ある言い伝えがあったのだ。

5年に一度、若くて美しい娘を捧げなければ、狂った巨大な狼が災いをもたらすと。



「…私が見えるか。」

「…へ…あ、あなたは、…!」

さっきまで、助けを呼びながら扉の前で打ち震えていたはず…
沙里は必死に記憶を探るが、どうして自分がここにいるのか全く分からない。

西洋を思わせるシャンデリアが照らしたこの部屋は、壁の棚に歪で奇妙な置物が大量に飾られていた。

沙里は石でできた診察台のような椅子に寝かされ、手は頭の上で固定されている。
脚はM字に広げられた状態で固定され、着ていたはずの白いワンピースは無くなり、素肌を冷たい空気に晒していた。

そんな中、状況判断もままならないのに、低い声の主はお構いなしに話しかけてきたのだ。

「さっきも言っただろう、怖がる必要は無い。」

「あ…………」

沙里の声は震えていた。
返事などこの際できるはずがない。

怖いのか、恐れているのか、感動しているのか、興奮しているのか…。

未知との遭遇は、形容しがたい感情のオンパレードだった。

「私はレイだ。お前もじきに慣れるだろう。」

目の前にいる彼は見た目こそ狼だが、まるで人間のような出で立ちで沙里を見ていた。
隆々とした筋肉は彫刻のようで、体つきは成人男性そのもの。
狼男という表現が当てはまる容貌だ。

琥珀色の瞳に沙里が映り、信じられないことに、その中の彼女は穏やかな表情をしていた。
しかし全裸は恥ずかしく、考えるより先に体が動いてレイに何かしらを訴える。

「ふ、服……!ないの、嫌…帰りたいッ!!!」

固定されている手や足で必死にもがくが、拘束器具は思ったよりも頑丈で自由になる気配はない。
擦れた皮膚からは血が滲み、沙里は顔を強張らせた。

「…諦めるんだな。どうせここから出られやしない。」
/ 88ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp