第7章 女王様は(彼目線)
(…最高の名誉、か……。)
怒りで顔を真っ赤にして叫んだ女王様の言葉が、親友の言葉と重なる。
雄の蜂は働かない。
女王蜂と交尾をするためだけに生まれ、朽ち果てる。
交尾できなかった雄は巣から追い出され、これまた朽ち果てる。
そうなれば、女王蜂と交尾できた者は使命を全うした勇者であり、最高の名誉に値する…
(あいつもよく言ってたな…同胞のために命をかけるのが役目だって…)
なら、役目を果たせなかった彼は何のために死んだのか。
(無念だよな…)
あれから数時間が経ったが、俺は女王様の部屋に行く気はない。
『今晩私の部屋に来なさい』という女王様の命令を忘れた訳ではない。
だけど…俺には俺の優先順位がある。
知らぬ間に、自然と足が赴いたのは親友を見送った窓。
瞬く無数の星に誘われて衝動的に翅を広げ、夜空の下へ飛び立った。
(絶対に見つけてやるから…)
交尾を終えた雄は、残りの体力を振り絞って死に場所を探す。
巣の中で死ぬことは許されていないからだ。
皆に迷惑がかかるのなんの…
そんな理由でひっそりと死ななければならない。
彼の様子を思い出してみる限り、あの状態ではきっと遠くへは飛べなかったはずだ。
俺は彼を探す旅に出て、休まずあちこちに視線を張り巡らせた。
木の枝に翅が引っかかり、傷が入って飛びにくくなっても…俺は巣の周辺をずっと探索し続けた。