第7章 女王様は(彼目線)
そして…ようやく見つけた。
樹根の陰に隠れて横たわる、一匹の蜂を。
更に目を凝らして見れば―――死んで姿が変わり果てても、記憶の中の彼と何一つ変わらないその顔を拝めることができた。
「………!」
俺が降下しても、もちろん彼が目を開ける事は無く…
力なく放り出された肢体には蟻が集り、彼の体を解体して巣に持ち帰ろうとしている最中だった。
安らかに眠る事さえ認められないなんて…!
「おい……っ!」
咄嗟に彼を蟻から助けようとして、俺はハッとした。
――――助けたとして、どうなる…?
もう、彼は既に死んでいるんだ。
こんなにも惨めな一生を歩むことしか許されていない俺達は…俺達がやるべき事は…
ブチンッ…!
蟻に首を引き千切られた親友の姿を見て、体に衝撃が走ると同時に悟る。
(…そうか…そうだよな……)
この時、俺の頭は突然軽くなった。
今まで散々悩んでごちゃごちゃにしてきた感情が、一瞬にして綺麗に晴れたんだ。
あの女王蜂に、死ぬまで消えない傷を負わせてやればいい。
未受精卵から雄が生まれてくるのなら、全力で精液を注いで殆どを受精卵にすればいい。
所詮、女王の立場に居座るだけの雌でしかない事を分からせてやればいい。
俺の心は決まっていた。
俺が、親友の役目を代わりに果たしてやる…。
交尾を終えて死ぬことに恐怖は無かった。
だって、女王蜂と交尾する事は最高の名誉なんだろ………?