第2章 ふたりの距離
黒塗りの高級車が国道を走る。
その綺麗に磨かれたボディーには神室町のネオンが影のように伸びては消えていく。
後部座席に座る真島は腕を組み、ぼんやりと窓の外の景色を眺めていた。
外は雨が降っていて路面が車のヘッドライトとブレーキランプで反射してキラキラと光っている。
真島は雨が嫌いだった。
体が濡れるのも嫌だし、気分も自然と沈む。
そして左目の古傷が疼いてしまうからだった。
忘れたい過去ほど頭に残り、脳裏に焼き付いて離れない。
―――――ごめんなさい
そう言い残して部屋を出て行った雅美の後ろ姿が、どうしても忘れられない。
哀愁漂う小さな背中を、
何故自分は追いかけなかったのだろう。
涙はもう渇いていたと思っていたのに、真島に残されたのは一滴の跡。
雅美は泣きながら真島の元を去ったのだ。
自分と離れたくなかったのか、
それとも男の元に帰りたくなかったのか。
考えれば考えるほど複雑に絡んでいく糸。
雅美の身の回りで自分の知らない事がごく当たり前に起きていて、
それをただ見守る事しか出来ない自分自身に嫌気がさす。
「あかんな……。どうも慎重になってしまう」
革の手袋で思わず頭を抱えてしまった真島。
そしてまたあのため息が現れた。