第2章 ふたりの距離
はぁぁ~…。
深いため息。
はぁぁぁ~……。
「何だ、真島。らしくないんじゃないか?」
場所はセレナ。
カウンター席に頬杖をついて座る真島に、伊達が口元を緩ませながら声をかける。
「……ため息をすると幸せまで逃げるってほんまなん?」
その口調にいつもの勢いが無い。
ママもいつもと様子が違う真島に少し心配していた。
「真島さん、何かあったんですか?」
優しく声をかけたママは、真島の空いたグラスを手に取り酒を注ぎ込む。
「……」
どこか一点を遠い目で見つめ、一人思いに耽る。
らしくない真島の姿に、伊達とママも顔を見合わせるほどだった。
「今、何時や……?」
「ちょうど8時だ」
「はぁ~めんど。このままふけようかな。今更頭揃えて、何話すっちゅうねん」
伊達が腕時計をちらりと横目で見る。
真島はがっくりと肩を落として、クロスした腕の中に顔を埋めた。
「東城会も大吾がやられて躍起になってるんだろ。会の頭がとられたんじゃ、仕方ねぇな」
伊達がグラスを傾けながら話す。
その頃の東城会の6代目が何者かによって撃たれ、何時になく騒然としていた。
代行の柏木が組織を仕切ってるとはいえ、いつ崩れて墜ちていくかわからない状況なのだ。
「……っしゃ!ほな行くわ、遅れると周りがガタガタぬかしよる」
真島は重い腰を上げて椅子から立ち上がると、
紙幣をそのまま置いて、ほなと言い残し店を出て行った。
「何かあったのかしらね、真島さん」
「あれじゃ嶋野の狂犬の名が廃れるな」
心配げに真島の後ろ姿を見届けたママに、伊達は苦笑いをして煙草を大きく吸った。