第1章 真島という男
真島と同じ目線に腰を下ろした雅美。
「風邪なんて寝たら治るって思うてたんやけど。意外にしぶといねんな」
ハハハと笑ってごまかす真島。
雅美にはあえて風邪を引いた原因を話さなかった。
話したらきっと余計な心配と自らの落ち度を感じてしまうんじゃないかと思ったからだ。
「最近組の仕事忙しくて、ろくに飯も喰うてないねん。それがあかんかったんちゃうか」
適当な嘘をついて雅美を何とか安心させようとする真島。
だが雅美の表情はさっきから沈んでばかり。
その姿を見て、うまく働かない頭で何か面白い話は無いかと探していた時、
雅美が小さな声でポツリと呟いた。
「ずっと心配してたんです」
下に俯いて話すその声はとてもか細く感じる。
「お店に来られないのは真島さんの身に何かあったんじゃないかって……」
思っても見なかった言葉に、真島は勢いよく飛び起き目を大きく見開いたまま雅美をじっと見つめた。
「色んな事を考えているうちに、もしかして真島さんとはもう会えないんじゃないかと思ったら、急に怖くなって……!」
肩を震わせながら話す雅美。
自分の自己管理不足でこんなにも相手に心配と不安をかけてしまった事に、真島の胸が張り裂けそうになった。
「ごめんな、雅美ちゃん。ずっと寝込んどって店に行きたくても行かれへんかった。自分がこない弱ってる所見せたくなかったんや」
真島は素直な気持ちを雅美にぶつける。
その思いに雅美は顔を上げ、涙目で真島を見つめた。
「ずっと雅美ちゃんに会いたくて会いたくて、このまま頭イカれるんとちゃうかとほんまに思うたわ」
寝ても覚めても雅美の存在が頭から離れなかった真島。
だが心で思ってる事と体が一致しない。
その苛立ちが医師、柄本へと向かわせたのだ。
「知り合いの医者んとこ行って、ぶっとい注射打ったからもう大丈夫やろ」
ニッと笑っても雅美は笑い返してくれない 。
「真島さん……、まだ無理してます」
「してへんわ」
雅美が口をへの字にして目線を真島から反らし拗ね始める。
そんな雅美の態度に真島はため息をついて頭をポリポリと掻いた。