第1章 真島という男
「大丈夫ですか真島さん…」
「おぅ……、何とかな」
真島は苦しそうな表情を浮かべながら、空いた手で自宅の鍵を出し、扉の鍵穴に差し込む。
雅美は肩で真島の腕を背負いながら、心配そうに顔を覗き込んだ。
そして扉の鍵が開くと、真島がドアノブを握りゆっくりと扉を開けた。
「ほんま、雅美ちゃんには迷惑かけたな。すまんかった」
「いいえ、謝らないで下さい。今は真島さんの体調が1番ですから」
真島は雅美の力を借りて歩き出すと、靴を脱ぎ自宅へ上がる。
雅美も真島を気遣いながら靴を脱ぎ家に足を踏み入れる。
そしてベッドルームの場所を真島から聞き出した雅美はその足で部屋に向かった。
広いベッドルームから見える神室町の夜景は、誰が見てもその素晴らしさに驚くだろう。
だが雅美はそんなものに目もくれず、
弱った真島をベッドに寝かせると、再び大丈夫ですかと優しく声をかけた。
「さっきから凄い熱です。今冷えたタオル持ってきます。台所お借りしますね」
半分意識朦朧としている真島に笑って話すと、そのまま部屋を出てカウンターキッチンへ向かった。
広いリビングには大きな白いソファーと、巨大な液晶テレビ。
それ以外は何も無く閑散としていた。
真島はこんな部屋で暮らしているのかと思うと、何だか胸がぎゅっと締め付けられる。
ここで日々暮らしている気配が全く感じられないだけに、
寝に帰るだけの為の家なのかと想像してしまう。
雅美は手慣れた様子で冷たいタオルとコップ一杯の水を持ち、ベッドルームに戻るとベッドに大の字で横たわる真島に声をかけた。
「お水持ってきました」
「すまんな、雅美ちゃん」
真島は苦痛の表情を浮かべながら何とか起き上がり、雅美からコップを手渡しで受け取ると、
ゴクゴクと喉を鳴らしながら水を一気に飲む。
そして空いたコップを雅美に渡して再び横になった。
「さっきよりラクになったわ。雅美ちゃんのおかげやな」
真島の顔に笑みが戻る。
雅美はつられて笑みを見せると、真島の額に冷たいタオルを優しく乗せてあげた。
「いつから体調悪いんですか?」
その言葉に思わず真島の目が泳ぐ。
「こんな状態で外に出たら更に悪化しますよ」