第2章 逢瀬
ウォール・ローゼの小高い野原。
花々が咲き乱れ、ここが壁の中だと忘れてしまうような美しさだ。
その中に一人、髪を靡かせながら座り込む女性がいた。
「…名前」
その声に、顔を上げる。
同時に長い睫毛も上を向き、透き通った瞳がその人物を映す。
「…リヴァイ」
少し嬉しそうに呼び返すと、リヴァイは彼女の隣へドサっと腰を下ろした。
「薬草か?」
「そう。…リヴァイは?お休み?」
「ああ」
「来てくれるんなら手伝ってよねー」
「俺は薬草はさっぱりだ」
そう言って欠伸をする。
「もう、眠いなら来なくていいのに」
「うるせえ」
「あーまたそうやって。そんなんで兵士長やってけてるの?」
「お前程じゃねえがな…あ」
「?」
リヴァイが何かを思い出したように名前を見つめる。
「な、なに」
「俺の部下達が、指導して欲しいそうだ。…新兵なんだが」
「え、わたし?リヴァイがやればいいんじゃ…」
「俺はそんな柄じゃねえ。…それに、お前に興味があるようだ」
「え?だって、調査兵団には会ってないけど」
「出掛ける俺を見かけたらしい」
「あぁ…最近よく来るもんねーリヴァイ。彼女とか言われたんでしょ」
「安心しろ、否定しておいた」
「否定しちゃったんだ?」
「……」
いつのまにか逸らしてしまっていた顔を、名前に向け直す。
名前はニコニコしているだけで、なにを考えているのかリヴァイには読めない。
「…からかうな」
絞り出した皮肉のつもりが、これだけだ。
「だって、そこで認めれば真偽はともかく恋人になった訳じゃない?その状況下だけ」
「それじゃ意味ねえ」
ふい、と名前から顔を背けるリヴァイ。
「ふーん、じゃぁどうなれば意味があるのさ」
「お前が俺に惚れたらだ」
「惚れてるよ?」
「馬鹿言え」
「なんでよ」
「見りゃわかる」
「うーん、伊達に年取ってないなあ。流石恋愛マスター」
「馬鹿か。俺はお前しか見てねえよ。今も昔もな」
「……」
「…どうした?」
俯いてしまった彼女の顔を、横目で心配そうに見つめるリヴァイ。