第1章 紅茶
凪いだ夜。
私はソファに座っていた。その日にもらった書類の整理をしていて、とにかく難しい顔をしていたらしい。
「ほーら、またそんな顔になっちゃって」
そういって私の前にストローがさしてあるアイスティーを差し出してきたのは、私の義父であるクザンだった。
「ありがとう」
「書類なんか適当に見ていけばいいのよ」
「そうは言っても、あんまり適当だとヒナ先輩に怒られちゃうから…」
「うーん、それは怖いなぁ」
クザンは温かい紅茶を飲んでいた。私は書類を机に置き、クザンさんのアイスティーを持ち上げる。その動作をじっくりと見るクザンさん。
「…なに?」
「いや、何も」
「なんかさ、パパの作るアイスティーってめっちゃおいしいよね」
「何よそれ、まだ一口も飲んでないのに…」
それと、パパ呼びをやめなさいと言われた。私的にはクザンさんだなんて呼べないんだ、恥ずかしくて…と照れて笑う。
ストローをつかんで、いただきますと言ってちゅーと一気に口の中に入れる。
「どう?」
「うん、おいしい」
「…なんか、変な味する?」
「ん~、少しイチゴ風味?でも全然いけるよ」
アイスティーをくるくる回す。氷がいびつな形をしていることに気が付いた。
「…この氷って…?」
「あらら、気づいた?それ俺の氷」
「そうなんだ…パパの氷って何気においしいよね」
グラスを傾けて、氷を口の中に入れた。ぼりぼりとそれを砕くとさっきのイチゴの味が口の中に広がった。氷に隠されていたのか…と驚いた。
「なんか…」
自分の心臓が早くなるのに気づいた。頭がぼーっとする…。
「ねぇ、暑くない?」
「いや、そんなことないけど」