第2章 秘密
(さっきのパンダが…半田くん?)
もう訳が解らなかった。
彼は私をからかっているのだろうか?
でもさっき私がパンダを見たのは事実だし…
「お願いします……さっき見た事…誰にも言わないで下さい」
「……、」
泣きそうな顔でそんな事を言ってくる半田くん。
誰かに話すも何も、私自身まだ信じられないのだけれど…
無言の私に焦ったのか彼は掴んでいた私の両肩を放し、その場に膝をつく。
そして地面に付く程、深々と頭を下げた……所謂"土下座"というやつだ。
「ちょっ…!」
周りに人がいないとはいえ、突然そんな事をされ慌てる。
土下座なんてされるのは生まれて初めてだった。
「は、半田くん…顔を上げて…!」
「お願いします…!もしこの事が他の人にバレたら…っ」
私の言葉など聞こえていないのか、そう頭を下げ続ける彼。
さっき見た事がもし現実だったとしても、私は誰かに話すつもりなどない(というか、話したところで信じてもらえないだろう)。
もう一度そう告げようとした瞬間、彼はようやく顔を上げた。
「お願いしますっ…、俺…何でもします!織田先輩の言う事何でも聞きますから…!」
「っ…」
縋るような視線を向けられ、ドクンと心臓が跳ねる。
そして沸々と沸き上がる加虐心…
私は無意識に腰を屈め、彼と視線を合わせていた。
「…そんなに秘密にしてほしい?」
「っ、はい…」
「私の言う事、本当に何でも聞く?」
「はい…!」
私の問いに迷わず頷く半田くん。
従順なその態度に口元を綻ばせる。
その時の私はどうかしていたのだ。
仕事のストレス…母親からのプレッシャー…
更に目の前で起きた有り得ない事…
もう頭の中はグチャグチャで、まともな思考回路など持ち合わせていなかった。
「じゃあ黙っててあげる」
「っ……ほ、本当ですか!?」
「その代わり…」
――今日から半田くんは、都合のイイ私だけのペットだよ?
耳元でそう囁けば、ぴくりと反応するその体。
クスリと笑いながら空を見上げると、綺麗な満月が私たち2人を照らしていた…
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