第23章 悪戯
敦「太宰さん、何を見ているんですか?」
微動だにしない太宰の手に或ったのは一枚の写真。
太「綺麗だろう?」
敦「はい。お知り合いの方ですか?」
視線を写真から敦に移し、にっこりと微笑んだ。
太「私の意中の人だよ。」
敦「えぇっ!?あの太宰さんの!?」
そう云われもう一度写真に目を落とす。
白いワンピースに麦わら帽子を被った女性。
腕の中には色とりどりの花束を抱えている。
何も云わずとも幸せだ、と彼女の屈託の無い笑みが其れを物語っていた。
敦「とても幸せそうですね。」
太「嗚呼……、幸せだったね。」
遠い目をして答えた太宰を見て余計なことを云ってしまったのだと気付いた。
太「別段気にしてはいないよ。」
再び写真に目を落とし慈しむように微笑んだ彼。
敦の予想が確信へと変わる。
敦「もしかして、その方はもう………。」
太「そうだよ。だから敦君、伝えたい事はその時に伝えておくべきなのだよ。」
矢張り。
写真の中の女性には二度と会うことは出来ないのだ。
太宰は大事そうに其れを懐にしまうと少し外の空気を吸ってくるよ、と砂色の外套を翻しその場を後にした。
残された敦は如何にも仕事をする気になれず、自身の机に頬杖をつき先刻のことについて考える。
それから一時間後。
国木田からお叱りを受け渋々と仕事をしていた敦。
如何やら依頼者が来たらしい。
来客用のソファーが賑やかだ。
何時もなら別段気に留めもしない光景だが、何故だか今日はそうもいかないらしい。
一寸した好奇心で其処を覗けば顔を真っ赤にしながらしどろもどろに話をする国木田と、彼を面白がって見守る探偵社員。
そして、
——————あの写真の女性が居た。
否、彼女で或る筈が無い。
既に他界しているのだから。
とすれば考えられる事はただ一つ。