第20章 侵食
『…………………まただ。』
仕事を終え帰宅した私の溜息は暗闇に消える。
疲れた私を出迎えてくれたのは愛しい恋人でも可愛いペットでも無く、手紙と大量の写真だった。
ドアポストに入っている其れを無造作に取り出し、家のリビングへと持ち込む。
朝の支度から仕事中、更には友達と話している時でさえも撮られている。
よっぽどの執念深さだ。
『なんでこんなに…。』
一人ボソッと呟いた私は手紙に目を通す。
“私には貴女だけ。貴女も私だけ。”
私って云われても検討も付かない。
こんなことする暇が或るなら正々堂々と対面してくれれば佳いのに。
———————そう思った私は未だ甘かった。
『……………ハァハァ。』
何時もの帰宅途中。
今日もまた恒例のアレが待っているのだろうと重い足を運んでいたのだが違った。
誰かが付けてきている。
しかも一定の距離を保って。
私が歩けば相手も歩き、私が走れば相手も走る。
直接来ればいいのにとは思ったが矢張り其れは其れで怖いものが或る。
私は本能に従い逃げ続けていた。
『い"ったぁ!!』「ッ!!?」
突然の衝撃に驚くが後ろを振り返り乍ら走っていた私は目の前に居た人に全く気が付かず、勢いよくぶつかり尻餅をついてしまったのだと漸く理解する。
「ほら、立てるか?」
『あっ、ありがとうございます……。』
自分からぶつかったにも関わらず親切に手を差し伸べてくれた。
その手を素直に受け取り礼を云うと思わぬ展開が待ち受けていた。
『あのっ、すみませんでした!急いでた「何があった?」………え?』
「後ろチラチラ見ながら走ってただろ。追われてンのか?」
『あの………………はい。』
「とりあえず彼処で座って話すか。歩けるか?」
『えっ!?あ、歩けます、けど…。』
「じゃア行くぞ。」