第17章 拾い者と落し者 其の壱
『私の異能力は、“等価交換”。その名の通り何かと等価交換する事によって傷を治せたり危険な状況から回避出来たりするんです。今回は中也さんを助ける代わりに私の記憶を使ったみたいです。』
太「最も大事な人を助ける代わりに最も大事な人との記憶を、って事だね。」
敦「そ、そんな……」
『でも彼を助けるには此れしか方法は無かったし結果的には記憶も少しずつ戻ってるからいいんです。』
敦「じゃあ治癒系の異能力ってことですか?」
『攻撃も出来ますよ。相手を骨折させたりとか。まぁその代わり自分も骨折しちゃいますけど…。』
敦「扱い方が難しいですね。」
押し黙ってしまった敦に苦笑いを浮かべた彼女は自身のポケットが震えているのに気付く。
太「げっ。嫌な予感しかしないのだけれど。」
『ふふっ、当たってますよ。——もしもし?』
———もしもし?じゃねェよ!手前ェ何処ほっつき歩いてンだよ!あの書類に判子押しとけっつっただろうがよ!
『あ、忘れてた。ごめんごめん。』
———良いからとっとと帰って来い!
『私が居ないと何にも出来ないんだもんね?』
———引っ張ってンじゃねェよ!!………嗚呼、そうだよ。だから早く顔見せろ。
言うだけ言うとブチッと音を立てて切れた電話に愛理は思わず口角を上げる。
『じゃあ私は帰りますね?また来ます。皆さんまたお会いしましょう。』
乱歩や太宰達から暖かく見送られた彼女は愛しい恋人の元へいそいそと向かう。
太「結局蛞蝓かぁ……。」
江「僕にもああだからね。」
敦「?」
一人だけ会話について行けてない敦にクスリと笑った太宰は憂いを帯びた顔で諭す。
太「彼女、誰に対しても丁寧過ぎるぐらいの敬語を使うだろう?」
敦「…….云われてみれば!」
太「ただ彼と話す時だけは敬語を外れ表情も豊かになる。其れは記憶が戻ってない時からね。」
敦「中原さんには気を許しているんですね。」
江「まぁ最初っから勝ち目は無かったって事だよ、太宰。」
太「まだまだこれからですよ、乱歩さん。」
END