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在りし日の歌【文スト】【短編集】

第16章 交差




中也side


『ほら、分ァーったらさっさと行け!』

「はい。すみませんでした。」


自分の受け持つクラスの生徒を解放してやれば、やっと説教が終わったと云わんばかりに職員室から出て行った。
俺だって好きで叱ってンじゃねェーよ、等と心の中で呟けば隣のデスクの野郎が更に追い討ちを掛ける様に苛々させる。


「漸く愛理ちゃんと二人っきりになれたよ〜。」

『ハァ!?手前変な事してねェだろうなァ!?』

「なぁに?変な事ってー。」

『五月蝿ェ。分かンだろうが!』

「えぇ〜?私分かんなーい。」

『この青鯖野郎……。云いから答えろよ!』

「空き教室で資料作り手伝って貰っただけだよ?何たって私のクラスの生徒だからね!いやー、あの子は良い子だよ。君も見習い給えよ。」


俺の受け持つクラスの生徒じゃないのはしょうがないにしろ何で寄りによって此奴のクラスなンだよ…。
お陰で太宰の木偶が毎日の様にちょっかいを掛けている。
何かと理由をこじ付けて一緒に居ようとする。


『あんまりこき使うと過労死すンぞ。』

「其の時は私も一緒に心中するよ!」

『安心しろ。手前ェが過労死する事は一生ねェ。』


太宰との戯言を程々にし職員室を後にする。
向かう先は勿論喫煙所。
気分が晴れない時は彼処で煙草を吸うのが一番だ。
煙と一緒に心のモヤも何処かへ消え去る気がする。
そんな気がするだけだ。


『誰も居ねェか。』


此の御時世、やれ電子タバコだのやれ禁煙だので喫煙所に来る奴は俺を含めて三人しか居ない。
尤も其の内一人は喫煙しないのだが……「あっ!中原先生!」


『未だ帰ってなかったのか。』

「はい。何となくですけど中原先生とお話してから帰ろうかなって。」

『俺が来るとは限らねェだろ。』

「そう云って来なかった日は無いですよ。」


クスクスと笑う彼女を見てそりゃそうだろうな、と呟く。
こちとら手前に逢いに来てるンだからよ。
二人っきりになれる唯一の時間なンだ。


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