第12章 天城 燐音 / Happy Birthday
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「燐音さん、何か欲しいものとかありますか?」
「は? 何々? 珍しいじゃん、そんな事聞いてくるなんて…一体何を企んでるんだろうなぁ?」
「もー、企みも何も…もうすぐ誕生日じゃないですか! その…お恥ずかしい話、彼氏の誕生日を祝うなんて初めてなので…何をあげたら喜ぶのかサッパリ分からなくて…いっそのこと聞いてみました…」
「ははっ、成程ねぇ」
「…燐音さん…?」
何だろう…?
表情が硬い…っていうか、何だか元気が無いような…?
「…何にもいらねぇよ。誕生日っつーの、好きじゃねぇんだわ」
「…え?」
「出来れば、”普通の日”として扱ってくんね?」
「…えっと……」
「…じゃあ燐音くんパチ屋行ってくるからよぉ、またな~☆」
「えっ、ちょっ……」
手をヒラヒラと振りながら、こちらを振り返ることもなく
燐音さんは歩いて行くのでした。
「なんで…」
何で私は、その後を追えなかったのでしょう……
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『燐音様、本日はお誕生日おめでとうございます。燐音様のような次期君主がおられて我々は幸せです』
『燐音様、生まれて来て下さってありがとうございます…』
『燐音様…』
『燐音様…』
ウンザリだった。
どいつもこいつも、”次期君主”を祝うばかりで
”俺”を祝ってくれる奴なんて一人もいなかった。
仰々しい世辞も、”俺”を欠いた空っぽで哀しいだけの祭事も
全てが窮屈で退屈なだけだった。
そんなもん、いらねぇよ…
何事もない日々が、何者でもない今があれば
何もいらねぇんだよ
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「あー、燐音くんってば聖子さんにもそうなんすね…」
「…も…?」
「去年の僕も、全く同じこと言われて、祝わせて貰えなかったんすよ。何なんですかね? 誕生日に何か嫌な思い出でもあるんすかねぇ?」
「…分からない。でも、そんな感じかも…。……。」