第6章 大人のヨユウ
「今までありがとうございました。」
「え?」
(今まで、ありがとうございました?どういう事?)
状況がつかめずに困惑する光里に向けて圭祐はさらに続けた。
「なんか、いつも押しかけたりしててすみませんでした。」
「そんな事。私はきてくれるのいつも楽しみだったんだよ?」
いつもと違う圭祐の姿に得体の知れない不安を感じ、少し声が震えた。
「ありがとうございます。そう言ってくれて、嬉しかったです。」
(なんで、全部過去形で話すの?)
光里はなんとか引きつった笑いを浮かべて話しかけた。
「やめてよ、そんな。お別れみたいじゃん。」
圭祐は一瞬表情をしかめ、
「もう、多分、行きません。でも、別に的羽さんのこと、嫌いになったわけじゃ、ないですから。」
と下を向いて言った。
(嘘、、、、、)
呆然と立ち尽くす光里に向け、圭祐は最後の一言を告げた。
「さよなら。」
(待って、行かないでって言いたいのに。)
なんだかその言葉が圭祐を傷つけてしまう事を、本能的に悟った。
何故だかはわからないけれど。そのかわり、違う言葉を言うことにした。
走って追いかけて、圭祐の腕を掴んだ。
「え、ちょっ、、、」
「待ってるから、ずっと。」
それだけ告げて、光里は家の方へ駆けて行った。
これ以上、圭祐の前で泣きたくなかったから。
“恋”が、終わりを告げた。