第3章 皆が頑張るWhiteDay
〈 姫次 凌 side episode 〉
『う......なんだか...嫌な予感がする...』
めるの部屋に向かって
屋敷の中を歩いていた凌は、
急な悪寒にぞくりと肩を震わす。
(やばい...これは......あれだ...!)
何かを悟り、廊下を走ろうと
足に力を込めた瞬間、
「凌さまぁぁあああぁあ♡♡」
廊下の向こうから両手を広げて
走ってくるメイドと目が合ってしまった。
(......最っ悪だ...)
心の中で大きな溜め息をつくも、
凌はにこり、と爽やかな笑顔をつくる。
(...こういう、“僕が自分にだけ優しい”と勘違いしてる女は本当に面倒だから、
今回もそこは上手く避けてお返しも渡して回ってたのに......)
『去年までならあのまま帰ってたんだけど......
今年はめるちゃんがいるからなぁ...』
(まさかめるちゃんを探してる時に捕まるとは...油断した......)
そんなことを考えながら、
駆け寄ってくるメイドに
ひらひらと手を振ってそれにこたえる。
『どーも。久しぶりだね』
「ええ!最近お会いできず、私、寂しかったです...」
『...ごめんね?ちょっと忙しくて。
でも、久しぶりに見る君も、相変わらず綺麗だな』
「きゃあん♡ありがとうございます…!」
『ふふ、どーいたしまして。
それじゃあまた...』
そう言って、早くこの場を立ち去ろうと、
凌がくるっと方向を変える。
「あ、待ってください…!」
と、少し焦った声に呼び止められた。
『ん?どうかしたの?』
「そ、その...私...その......」
『ん?』
「その...!他のメイドから、凌様から
ホワイトデーのお返しを貰ったって聞いて...
その......わた、くしにはっ...」
(うーわ......でたでた...
そういうとこが面倒いんだって......)
凌は、そんなことを思っているとは
想像もつかないほど素敵な笑顔で
メイドにニコリと笑いかける。
『うんと、君にはー』
「あ...!もしかして、これが私にだったのでしょうか...?」
『ん?これって...?』
少し照れたようにメイドの指した指の先にあったものはー...
凌が持っている、“めるへのプレゼント”だった。