第3章 皆が頑張るWhiteDay
〈 花眩 羊 side episode 〉
『......これは...クッキーじゃない...』
自身が焼いた、
ようやくいい感じの焼き色になったクッキー(のような未知の物体)を一口かじり、顔をしかめる。
『...まずい...めちゃくちゃまずい...
なんでこんな美味しくないんだ...?
食感も味もめちゃくちゃ......。
こんなのあげたら、
逆に嫌がらせかと思われそう...』
ずーんと台所に両手をついて落ち込む。
『俺...料理はそこそこ出来るんだけどなぁ...
お菓子作りはどうやっても上手くいかない...』
料理とお菓子作りに必要なスキルの大きな差は、
“繊細さ”だ。
料理は感覚さえ合っていれば、
そこそこ成立はするのだが
お菓子作りはそうはいかない。
味が薄ければ後から醤油や出汁を足して、
濃いければ後から水を足すー......
足りない食材があれば代わりのきくものを探せば良いー......
そんな融通の効く料理と違って、
お菓子作りは、グラムや一つの材料がとても大きな決め手となるものが多く、
なんでも感覚で済ませてしまいがちな羊には
どうしてもむかない作業なのだ。
『......はなにも、俺はなんでも適当だから
とにかく慎重にやれって言われて...
その通りにやってるはずなんだけどなぁ......』
はぁ...と溜息を漏らす。
(最悪、お菓子じゃなくて違うものにする...?
いやいや!でも今からじゃそれもままならないし...
いやいやいや!でもこのままできないものをやり続けてもラチがあかないし...!!)
羊はばっと顔をあげて重い足をあげる。
『よっし!クヨクヨしてても仕方がない!
俺の取り柄は元気!!!とにかく行動しなきゃ!
とりあえず街に出てみよう!!』
そのまま、思い立ったがすぐに
羊は急いで台所を後にした。