第5章 I am weak
宣告通り、爆豪の前に一度たりとも姿を見せないまま、日々は過ぎ…
体育祭の日がやってきた。
自ら望んだことなのに、見なくなれば何故か逆に気になって存在を意識してしまう…。
そして、いつの間にか、無意識にくるみの姿を探すようになっていた。
同じような焦がしキャラメルのような髪色を見つけるたび
心臓が跳ねるが
振り返った顔が違うと、苛立ちを感じ、舌を打つ。その繰り返し…。
クラス別に入場口に移動する道すがら、そんなことが何度も行われていた。
(「これ爆豪自覚あるよな…」)
(「いやぁ…無いんじゃねぇの?」)
上鳴と瀬呂は、イライラした様子の爆豪を盗み見ながら、ヒソヒソ話し合う
さっきから、爆豪が視線を這わせているのは普通科の方ばかり。
(流石に居るはずだろ…あのクソ女)
B組が邪魔だがその奥に居るはずだ。
C組のどこかに。
穴が開くほど凝視し続けていると、ゆらりと揺れた人波の中に、ふんわりと巻かれた焦がしキャラメル色の髪を、高くポニーテールにしたくるみの姿が目にうつった。
いつものダウンヘアを探していたせいで見落としていたのだろう。
道具申請したのか、両手がいっぱいになるほど大きなぬいぐるみを抱えて友人と楽しげに話す。
ジャージは、大きいサイズなのか、袖を折り返して着ていて、小さな体に不似合いだ。
その姿は、一度見つけてしまえば否が応でも視界に止まった。
首元の太い皮の首輪が、彼女が発情期を迎えたオメガだと主張しており、アルファとベータの男たちはくるみに熱い視線を送っている
爆豪の目にも、まるでそこだけがカラーにでもなったかのように、
辺りは色を失い、くるみだけが鮮明に見えた。
幻覚じみた景色に、だが目を離すことができず、ただ一心にその視線の先を見つめる…