第1章 I am loving you
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何の不安もない合格発表から、2ヶ月が経ち
偽物みたいに満開に咲きほこる桜並木の中
灰色に深緑のラインが入ったジャケットに、深緑色のズボン。真っ赤なネクタイ…誰もが憧れる名門校の制服を見事に着崩して、
新入生らしさの欠けらも無いこの男ーーー爆豪勝己は、雄英高校に向かっていた。
もうあと少しで校門というところで、
『爆豪くん!まってくだ…ひゃう!』
と間抜けな声がして、爆豪は声の方へ振り返る
「……あ?」
見事に膝からコケて『イタタ…』と半泣きになっているのは、あの日試験会場でぬいぐるみを抱えていた女…
よく見ると、擦りむいたのか手の平から血を出している。
「テメェ誰だ
つか、オメガがアルファの俺に馴れ馴れしく話しかけてきてんじゃねぇ!」
何事にも優勢とされるα【アルファ】を理由に爆豪は、くるみを見下しながら吠えた。
『あ、の…ごめんね!
えっと……縫井くるみ…です
試験の時はありがとう
ぬいぐるみ、ひろってくれて…
あの時の人がいるって思って…その…』
顔を真っ赤にして狼狽するくるみ、制服は買うサイズを間違えたのか少し大きく、ダボついている。
爆豪は、面倒臭いがこのまま転けている女を放置するわけにもいかずくるみを睨みつけた
「つか、テメェ…なんで俺の名前知ってんだ」
『それは、だって…爆豪くん有名だから…ニュースで見た人だなって…ほら、ヘド…!』
ズカズカと早足に歩み寄ってくるみの顎を掴むと
「それ以上言うと、殺す」と吐き捨てた。
『………』
爆豪に捕まれた頬がみるみる熱を帯びていく
黙ったことを確認して、爆豪は手を離すと、付けていた赤いネクタイを外し、くるみの怪我をした手に乱暴に巻き付けた
「っ…たく
ドンクセェな…コケてんじゃねぇ」
『あり…がとう』
止血を終えた爆豪は、めんどくさそうに溜息を吐く
「テメェみたいなのが受かるっつーなら
ここのヒーロー科も大したことねぇな」
爆豪の言う通り、どこからどう見てもヒーローに向かなそうなくるみは、
立ち上がって膝をはらいながら眉を下げ笑う。
『…普通科なの
ヒーロー科は落ちちゃったの…』