第30章 I am talking about our past 2
『その後先生のところに連れていかれて、弔くんが私のことを紹介してくれたの。』
くるみは大きな岩に腰掛けて、トガに話して聞かせる。
トガは3メートルほど遠くにある大木にナイフを投げる遊びをしながら話しの続きを急かした。
「いよいよ、先生登場!ドキドキだよ!」
『先生を見た印象としては、え?この人って感じだった。
ボロボロで、あの頃はまだ、延命装置に繋がれてたし。』
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くるみを見たオールフォーワンは手放しにくるみを歓迎した。
「そうか…弔はやはりアルファだったか」
「念の為に血液検査もしたい。
首は噛んだが番になれてる感じがしない」
「わかった、後で確認するといい」
オールフォーワンはうなづいたあと、くるみの方に顔を向けた。
「【運命】に出会ったことで、弔は更に強くなるだろう…
感謝するよ、弔と共に歩んでいくことを選択してくれて。」
『……はい』
先生の口以外何も無い顔が恐ろしいのか、くるみは弔のそばにひっついて小さく返事をするだけだった。
「君が失踪して、今日でまる2日だ。
今のところ、失踪届けは出されていないが
君には父親がいたはずだ。
なぜ出されていないか、心当たりはあるかい?」
『心当たりも何も……
父はそういう人なんで。』
問いかけに、くるみは自傷ぎみに笑ってみせる
『【娘が失踪】なんて、『普通』じゃないから…。
近所に知られたくないんですよ。』
「ほう…?」
『娘の安否なんかより、世間からの目の方が心配なんです
そういう人なんで、うちの父は。』
「なら、彼には未練はないかい?」
オールフォーワンの低い声が広い病室に響いた。
病室と言っても、医療機器が所狭しと並んでいること以外は、ただのコンクリ壁の暗い部屋
『ありません』
くるみの物言いは、まるで当たり前だと言いたげに、平坦に響いた。
オールフォーワンはフム…と唸ると、
「わかった、それなら彼はこちらで処理しよう。」
そう呟いて、それ以上は何も言わなかった。