第29章 I am talking about our past
俺がくるみにあったのは、一年半ほど前のことだった。
まだ寒い日が続く2月のある日
人混みの中、たまたま目が合った彼女に、俺は生まれて初めて、胸の高鳴りを感じた。
くるみ以外の全員が、モノクロに見えた。
あのキャラメル色のふわついた髪が…
何色にも見える瞳
ほんのり色づいた上気した頬
桜色の唇がポカンと空いていて
まだ中学生だったくるみ。
今思い出しても、あの瞬間には身体中の血液が逆流するような興奮があった。
きっと同じことを感じたのだろう。
俺たちは、10メートル以上離れていたが、ゆっくりと、その中心地へと歩み寄った。
何人も人にぶつかりながら
でも、お互い目だけは逸らさないよう。
そうして、俺の赤い靴と、くるみの黒いローファーの先端が向き合った時…
俺たちは、何年も前から愛しあっている恋人のように抱きしめあった。
くるみは俺の個性も、俺がヴィランだということも知らなかったし。
俺も、くるみがどこで生まれて、何歳で、恋人がいるかどうかも知らなかった。
それどころか、どんな声で話し、どんな風に笑うかさえ知らなかったが
それが【運命】というものらしい。
腕の中の女が、どこから来て、どんな人だろうと
関係なく。
俺は、くるみを、目が合ったその瞬間から
どうしようもなく愛していた。