第26章 I am a ○○
「来てもらえますね?」
爆豪は瞬き一つせず、首を縦に振った。
彼の背後からシルクハットにコート姿の男が忍び寄ってきたのを、常闇はただ黙って見ていた。
パチン
爆豪の世界は湾曲し、音もなく連れ去られた。
爆豪の姿は一瞬にして消えたように見えた。
シルクハットの男はステッキを上機嫌に振り、コイントスの様に手元の“玉”を真上に投げ、掴み取った。
∞----------------------∞
ヴィラン名、コンプレス。
個性「圧縮」。
自分や対象を球状に切り取り、ビー玉サイズにまで縮小する事ができる。
∞----------------------∞
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
「黒霧……爆豪はどうした」
アジトであるBARの店内に、一人で戻ってきた黒霧に、弔は訝しげな顔で尋ねる。
【目的】は果たされたはずだ。なぜ誰も戻ってこない。
「いえそれが……コンプレスは…まだやる事があると言って、向こう(森)に居ます」
「はあ?」
くるみの頭を撫でていた死柄木の手が解かれて、彼の首筋へと伸びた。
「どういうことだ…説明しろ」
首筋を掻きむしる死柄木に、黒霧は言いづらそうに話しだした。
どうやら、スポットライトが当たってる内は俺の時間だとか、よく分からない理屈を捏ねて居残っているらしい。
ーーー「オイオイ初舞台なんだ。少しは楽しませてくれよ
ショウっつーのは、フィナーレをきっちりしないと、俺のエンターテイナー魂が汚れちまう
観客の期待には応えないと。
予想の裏をかく、
エンターテイナー冥利に尽きるってもんさ」
黒霧から一通りの話を聞いた死柄木はようやく首を掻くのを止めて、深々と溜め息をついた。
「要は見せびらかしに行きやがったって事か…
…黒霧、さっさと閉じろ」
死柄木はくるみを横抱きにすると、別の部屋へと歩いていく。
「エンターテイナーだとかフザケた事ぬかしやがって……これだから群れるのは嫌いなんだ」