第19章 I am a boy
「轟くん!」
「どうした緑谷」
肩で息をする緑谷に、轟は少し驚いた様子で返事をする。
緑谷は教室内に爆豪がいないことを確認してから
「今週末暇?!」
と聞いた。
「日曜はお母さんの病院に行く」
「土曜は?」
「予定はねぇが…」
よかったぁーとため息を吐く緑谷は、大きなリュックの中からチケットを2枚、轟に押し付けた。
「なん…だ?これ」
「デート!」
わりと大きな声で、緑谷が言うと、隣の席の八百万がバッ!と2人を見つめ、口元を抑えて「まぁ…!」と言う。
確実に勘違いをされているのだろうが、緑谷はそれどころではなく、
「待ち合わせ場所、また言うから!」
と食い気味だ。
「ちょっとよく分からねぇ…
なんで俺と緑谷が…?
確かに俺は失恋したが、別にオメガが好きとかそういうんじゃねぇぞ…?」
「ち!ちがうよ!!!
そうじゃなくて…デートの相手は、僕じゃないっていうかなんていうか……
あーもう、いいから!とにかく土曜日!空けといてね!」
未だ色めきだった表情で、2人を見つめる八百万と
よくわかんねぇな、と首を傾げる轟。
緑谷だけが、満足したように席に着くと、くるみに向かってLINEを打った。
【土曜日にしよう】
すぐ帰ってきた返事は
【いいよー】だ。
緑谷は少しだけ頬が緩むのを感じていた。
少し強引な手段だけど…善は急げだ。
縫井さんだって、轟くんの思いを聞けば、かっちゃんの非道さに気付くはずだ…。
ちょうど目の前の席に帰ってきた爆豪が座る。
(かっちゃんには…悪いけど
こればっかりは譲れないよ…)
同じオメガとして、
ヒートに苦しむ母親を持つものとして、
オメガを弄ぶアルファを許してはおけないんだ…。