第17章 I am not your destiny
「そっか…よかったよ」
「よかった?」
「あ…いや、うん…良くはないけど…
でも、轟くんは縫井さんと番になりたいんだよね?」
「あぁ。なれるもんなら、なりてぇ」
まっすぐ注がれる2色の視線に、緑谷は誠実さを感じて安堵する
が、全てはくるみの決めることで、自分はあくまで部外者なのだと
立ち入ったことはそれ以上言わなかった。
「あの後…どうなった」
「それは…」
緑谷は一瞬言葉をためらって下を向く。
あの後…爆豪に助けを求め、爆豪がくるみの家へ向かった。
昨日休んでいたことから、いろいろ「お察し」という状態だったのだが
だが、爆豪は番になっていないと言っていた。
となれば、爆豪はくるみを抱いたけれど。
それは、番になるための責任ある行為ではなく、ただ性欲を満たすためだけの行為だった…ということになる。
(かっちゃんのこと大好きな縫井さんのことだ…
どんな関係であれ、好きなアルファからの性衝動を断る理由はない…)
アルファのヒートは、オメガの強いフェロモンに便乗して起きる。
ヒート時のアルファが放つフェロモンは、オメガにとっては唯一の特効薬で
苦しみから、一時的に開放されると言っても過言ではない…。
ならば、無責任な体だけの関係でもくるみは幸せなのだろうか?
愛する人に求められる喜びを、感じているのだろうか?
彼の思考は未だ勘違いを孕んだまま、奥深く潜り込んでいく。
「緑谷…?」
問いかけに対して、何も言わず固まる緑谷に、轟は催促するかのように名前を呼ぶが、
緑谷はゆっくりと首を横に振ると
「僕からは…何も言えない」
とだけ呟いた。
「そうか…
時間取らせたな、すまねぇ」
(もし、かっちゃんがこのまま
縫井さんの体だけを縛ろうとしているなら…
縫井さんを救ってくれそうなのは、轟くん…
だったんだけど……あんなことがあったら、無理だよね…)
緑谷のため息は人知れず、溶けて消えた。