第1章 I am loving you
足先が何かを踏んで
靴底を持ち上げると、ベビーピンクのテディーベアと目が合った。
(んだコレ…)
ここは、雄英高校試験場A
今日はヒーロー科の試験日だ。
文武両道の最高嶺を争うこの場に到底不釣り合いなその物体を持ち上げ、辺りを見回すと
少し前方に、両手いっぱい同じようなクマを抱えた少女が目に入る。
焦がしたキャラメルのような髪色の少女は、ほかの受験生の女子より、一回りも二回りも体が小さい。
背の小ささと言うよりは、線の細さやパーツの小ささからそう感じさせた
「おい」
声をかけられた少女はゆっくりと振り返る。
整った顔にはめ込まれた、ガラス玉のような茶色の瞳が不思議そうに爆豪と合い
その動きでまた、何匹かクマのぬいぐるみが細い腕からこぼれ落ちた。
腕のいい職人の作った人形を思わせる美しい少女ーーーー瞬きするたびに揺れる長い睫毛が太陽の光を透かしている。
「これ、テメェのか
落としてんじゃねぇ、邪魔だろうが」
爆豪は拾ったぬいぐるみをくるみに押し付ける。
『あ!ごめんなさい
拾ってくださってありがとうございます』
爆豪の乱暴な物言いにも、少女は丁寧に頭を下げて、お礼を言ったのだが
そのせいでまた、手の中のぬいぐるみは何匹か追加して地面に落ちてしまった。
俯いた時にジャージの隙間から見える首輪…皮の幅の太いチョーカーは発情期後のオメガが望まない相手と番になるのを防ぐ、護身具だと一目でわかる。
(弱っちそうな女…オメガか…しかも発情期迎えた後かよ…)
道理で、近づくとなんとも言えないいい匂いがする…
アルファとベータを性的に惹きつけるフェロモンだ。
発情期中ではなくとも、発生するわずかな匂いに爆豪はくるみから距離を取った。
彼女は、この場に100以上居る受験生の誰よりも細く、小さく、そして弱そうだった。
この時代、何事においても劣勢とされるΩ【オメガ】であっても、ヒーローを目指すものは多い。
現に、第三世代辺りからは、オメガであってもヒーローになったものが多く存在する。
だが、1万人の受験生の中から絞りに絞られ、最終的に36人しか通過しない…それほどの難関な試験に、この場にいる誰もがこの少女の落第を予想していた。
(((ラッキーーーー)))
と、皆心の中で囁いて。