第1章 それは突然の事だった
『木葉秋紀先輩っ!』
部活の朝練後、他の奴らと教室へ向かう途中で突然呼び止められた。
声のする方に振り向くと、腰の辺りまで伸ばしたこげ茶の髪がふわふわ揺れる、可愛らしい女の子だった。
でも、その子の瞳は真っ直ぐに俺を見ている。
…ん?俺こんな子知らねえぞ?
誰だ?と考えるより早く、その女の子が動いた。
『私、2年のと言います。木葉先輩、好きです!』
隣で、ヒューヒュー!なんて言ってる木兎の声も耳に入らない。
…は?
俺ら初対面だよな?
可愛い子に告られたってのは嬉しいけど…俺は今バレーが…でも…いや、やっぱり…
「あー…あのさ、気持ちは嬉しいんだけど…」
とりあえず当たり障りないように断ろうとするけど、女の子はそんな俺の答えを遮る。
『あ、返事は分かってます!でも私、諦めませんから。失礼しますっ』
その女の子…は、綺麗な動作で頭を下げると、そのまま踵を返して行ってしまった。
…なんだったんだ…?
「木葉ぁ、あの子ちょー可愛かったじゃん!なんで断んの?ねえ!ねえ!」
「木兎さん、少し黙ってください」
木兎と赤葦の会話を背中で聞きながら、なんとか教室へ向かった。